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素材で世界を変える〜老舗紡績企業の大きな挑戦〜【全国知識製造業会議2025 ダイジェスト】

2026.03.02
素材で世界を変える〜老舗紡績企業の大きな挑戦〜【全国知識製造業会議2025 ダイジェスト】

株式会社リバネスは、世界の課題解決のため、中堅中小企業とベンチャーが知識と知識を組み合わせ、新しい知識を作る場として「全国知識製造業会議2025」を2025年4月18日に開催しました。

基調講演の「素材で世界を変える〜老舗紡績企業の大きな挑戦〜」(セッションパートナー:長谷虎紡績株式会社)では、約140年にわたり、岐阜県羽島市で紡績事業を営む「長谷虎紡績株式会社」の代表取締役社長 長谷 享治氏が登壇。老舗企業がベンチャー企業とタッグを組み、知識製造業に取り組む理由をスピーチしました。本記事では、この講演をダイジェストでお伝えします。

創業時から変わらぬ課題解決への想い

長谷 享治 長谷虎紡績株式会社 代表取締役社長

1980年、岐阜県出身。麗澤瑞浪中学・高校を卒業後、麗澤大学に進学し2003年3月、同大を卒業。2003年4月、長谷虎紡績株式会社に入社。大阪支店や中国の子会社社長を経て2019年12月、5代目として長谷虎グループの代表取締役社長に就任。

 

はじめに、弊社の成り立ちからお話させていただきます。長谷虎紡績の創業は1887年(明治20年)で、創業者は長谷虎吉。祖業は生糸の生産でした。

創業者が生きていた時代、羽島市の主な産業は農業でした。人々の生活はあまり豊かではなく、農家は副業として養蚕業を行っていたそうです。繭玉は豊富に採れましたが、都会から来る仲買人に相場より安い価格で買われていました。そのため、どんなに頑張って仕事をしても、豊かにならない状況だったそうです。

創業者に生糸を作る技術や知識はありませんでしたが、「地元を豊かにしたい」という情熱から、製糸工場を設立しようと考えました。地域の人々が作った繭玉を適正な価格で買い、工場で農家の子供たちを雇用できれば、地域が潤うはずだと。そこには地域の社会課題を解決したいという明確な目的があったのです。

紡績業界が抱える2つの課題

創業者の時代から数えて私は5代目になります。現代では、紡績業界はどのような課題に直面しているのでしょうか。「紡績工場の規模や生産能力」を表す「錘(すい)」という単位がありまして、ピーク時の1960年代に、国内には約1,200万錘の設備がありました。ところが国際的な価格競争のなかで、労働力が安い海外に生産拠点が移り、2024年時点で約14万錘へと大きく減少してしまいました。

この写真は、岐阜駅の中心街にある繊維問屋街を写したものです。50年ほど前には大変栄え、国内各地からはもちろん、海外からもバイヤーが素材の買い付けに来ていました。しかし、紡績業界の縮小とともに人通りがまばらになり、かつての賑わいが見られなくなっています。

紡績や繊維に関わる世界の課題にも目を向けてみましょう。世界で生産されるアパレル製品は、過去15年間で約2倍に増えました。現在、アパレル産業が排出する廃棄物は年間9,000万トン以上とされ、リサイクルされているものはごく一部です。

国内では紡績業が縮小しており、世界ではアパレル由来の廃棄物が環境に負荷をかけています。私たちはこうした社会課題の解決を目指して、中堅・中小企業やベンチャーと共に知識製造業を行っています。

60年前から続くベンチャーとの連携

近年ではベンチャー連携という言葉がよく聞かれるようになりましたが、私たちは決して流行りに乗って連携を進めているわけではありません。実は長谷虎紡績は60年ほど前に、とあるベンチャーと連携していました。

連携相手は掃除用具のレンタル事業者、後の株式会社ダスキンです。60年ほど前、ダスキンの創業者である鈴木清一さんは、人々の家事の負担を減らすため、水を使わず掃除ができる雑巾のレンタル事業を考え、素材を見つけるために様々な会社を訪ねていました。 

当時、雑巾は使い古したタオルや布を使って家庭で作るもので、「レンタルして使う」という発想は斬新すぎるものでした。長谷虎紡績にもご相談をいただきましたが、担当した従業員はお断りしたそうです。この商談の直後、鈴木氏は長谷虎紡績の社屋前にある記念碑の前で手を合わせていたそうです。そこにたまたま私の祖父が通りがかって話を聞くと、「人々の負担を減らすために、雑巾のレンタル事業を始めようと相談にまいりました。今回は断られてしまいましたが、話を聞いていただけたことに感謝して手を合わせていたのです」とおっしゃったそうです。

祖父は、社会の課題を解決したいという鈴木氏の純粋な想いに心を動かされ、協力を決心しました。この出会いから、1964年に化学雑巾の「ホームダスキン」が生まれたのです。

今も私たちはベンチャーと連携を進めています。たとえば、山形にある「Spiber(スパイバー)」という会社と共に、バイオマスを発酵させて作る人工タンパク質素材の糸を開発しています。この素材は生産時の環境負荷が少ないことが特徴です。他にも、使わなくなった服を回収し、衣服の原料へ再生している「JEPLAN(ゼプラン)」という会社とも連携を進めています。

ベンチャーは独自の技術やプロダクトの開発に長けています。しかし、製品づくりや流通のノウハウを持ち合わせていないことがある。だからこそ、ノウハウを持つ私たちが彼らと共に事業を作る意義があると思っています。

また、地域連携の取り組みも進めており、弊社がスポンサー契約を結ぶFC岐阜と共に、羽毛や古着の回収やリサイクルを進めてきました。自社単体でできることが限られているからこそ、様々な団体と連携をしていくことが大切だと考えています。

経営者の仕事は「未来をつくり、責任を持つこと」

私は、経営者として最も大切な使命と役割は、未来を作り、責任を持つことだと思っています。長谷虎紡績は2025年の4月に、9名の新卒社員を迎えることができました。そのうち8名は高校を卒業したばかりの18歳で、彼らが定年を迎えるのはおよそ40年後です。これから40年間、長谷虎紡績を選んでくれた大切な社員を幸せにしていくためには、会社の未来を作り出していかなければいけません。

長谷虎紡績は、5年ほど前から「素材で世界を変える」というメッセージを発信してきましたが、周囲からは「地方の中堅紡績業者が世界を変えられるわけがない」と厳しい意見をいただきました。

新たな未来の実現には長い時間がかかります。過去を紐解けば、弊社も長い時間をかけて新たな素材の開発を進め、その裏側には、数えきれない失敗がありました。しかし、失敗から得た経験があるからこそ、長谷虎紡績の今があり、その先の未来が描けるのです。

今日は、私が持つ知識と、ここに集まる方々の知識を組み合わせて、世界を変える新しいアイデアを生み出していきたいと考えております。共に未来を作っていきましょう。