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新時代の中堅・中小とベンチャーが、日本と世界を変えていく【全国知識製造業会議2025 セッションダイジェスト】

2026.03.02
新時代の中堅・中小とベンチャーが、日本と世界を変えていく【全国知識製造業会議2025 セッションダイジェスト】

株式会社リバネスは、中堅中小企業とベンチャーが持つ知識や技術を組み合わせ、社会課題の解決を目指す場として「全国知識製造業会議2025」を2025年4月18日に開催しました。

オープニングセッションの「新時代の中堅・中小とベンチャーが、日本と世界を変えていく」(セッションパートナー:株式会社 パイオニア・コーポレーション)は、一般社団法人ベンチャー型事業承継 山野氏と、UntroD Capital Japan株式会社 永田氏のプレゼンテーションから始まり、その後、株式会社みずほ銀行の足立氏とリバネス株式会社の丸が加わってパネルディスカッションを展開。世界を変える新たな知識の共創をテーマに、中堅・中小企業とベンチャーの海外展開や、両者の連携について議論が交わされました。

本記事ではその様子をダイジェストでお伝えします。

セッション登壇者
山野 千枝 氏(一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事)
永田 暁彦 氏(UntroD Capital Japan株式会社 代表取締役社長)
足立 龍生 氏(株式会社みずほ銀行 常務執行役員 リテール・事業法人部門 共同部門長)
丸 幸弘(株式会社リバネス 代表取締役グループCEO)

“アトツギ”こそが未来をつくる 【山野 千枝氏 講演パート】

山野 千枝 一般社団法人ベンチャー型事業承継代表理事
1969年生。関西学院大学卒業後、ベンチャー、コンサル会社を経て、スタートアップ・中小企業支援拠点「大阪産業創造館」の創業メンバーとして参画。ビジネス情報誌の編集長として多くの経営者取材に携わる中、中小企業の後継者によるイノベーションに着目。「アトツギベンチャーを日本のカルチャーに」というミッションを掲げ、承継予定者が新規事業開発に挑戦する環境整備を行なう一般社団法人ベンチャー型事業承継を2018年に設立。関西学院大学大学院 経営戦略研究科/関西大学 非常勤講師。著書『アトツギベンチャー思考〜社長になるまでにやっておく55のこと』(日経BP)、『劇的再建〜非合理な決断が会社を救う〜』(新潮社)。

私が代表理事を務める「一般社団法人ベンチャー型事業承継(以下、ベンチャー型事業承継)」は、新たな領域に踏み出す事業承継者を支援する団体です。

先代から受け継いだ有形・無形の経営資源をもとに新たな事業や領域に挑戦し、自社の存続にコミットする経営者を「アトツギ」と定義して、日本の新たなカルチャーにするために活動しています。

近年、国は新興企業の支援政策を掲げ、ユニコーン企業やエコシステムの創出に取り組んでいます。この動きに金融機関やVCも加わっていますが、中小企業の承継予定者に目を向けている機関はほとんどありませんでした。

だからこそ、私たちは全国でアトツギ支援の輪を広げてきました。政策提言や活動が徐々に実を結び、特に九州ではほぼ全域で、自治体によるアトツギ支援がなされています。近年では、地方銀行や信用金庫、鉄道会社も支援に参加してくださるようになりました。また、中小企業庁も支援の一環として、39歳以下の事業承継予定者が出場できるピッチイベント「アトツギ甲子園」を毎年開催しています。

私は、アトツギが知識製造業に向いている点として大きく5つのポイントがあると考えています。

1つ目は「ロングターミズム(長期的な試行)ができること」です。アトツギは中長期的な目線で技術開発ができ、世代をまたいで事業の種を育てられます。

2つ目は「2トップ体制ができる」こと。アトツギは既存事業は先代に任せ、自分は新規事業開発に集中できます。役割分担ができるので、リソースを最適化しやすいのです。

3つ目は「実証フィールドを持っている」こと。すでに設備や人材が揃っているので、試行錯誤を行える環境が整っています。

4つ目は「ノウハウの蓄積がある」こと。例えば、西陣織の帯を手がけてきた老舗企業が、織りのノウハウを活用して導電性繊維をつくり、ウェアラブルデバイスを開発している事例があります。蓄積してきた技術や職人の知恵が、新しい事業の種になるんですね。

最後に5つ目は「事業存続へコミットしている」こと。私が関わってきたアトツギ達は、「事業を革新しなければ生き残れない」という強い思いを持ち、新たな領域に挑戦しています。

私は、社会課題を解決するアトツギベンチャーをもっと生み出していくために、事業承継者と研究者や企業がマッチングできる仕組みをつくりたい。今日は皆さんと議論を行いながら、そのヒントが見つけられたらと考えています。

地方こそ、世界を変えるスタートアップの震源地【永田 暁彦氏 講演パート】

永田 暁彦 UntroD Capital Japan 代表取締役社長
株式会社ユーグレナの未上場期より、取締役として事業戦略・財務・バイオ燃料領域を主に管轄。2021年より同社のCEOに就任し、全事業執行を務める。2024年同社を退職。2015年、社会課題解決に資するディープテック投資を推進するリアルテックファンドを設立。2024年、同ファンドを運営するUntroD Capital Japanの代表取締役社長に就任した。日本初のNPOを母体とするソーシャルインパクトIPOを果たした雨風太陽の創業および経営や、ヘラルボニーの経営顧問を務めるなど、資本主義におけるソーシャルインパクトの実現に注力している。

私は、UntroD Capital Japanというディープテック特化型の投資ファンドを運営しています。社会課題を解決して世界を変えていく技術や研究者を支援するため、ディープテック支援に特化した「リアルテックファンド」を立ち上げ、この10年間で国内85社、海外16社に400億円超を投資してきました。

現在、投資先の半分以上は地方発のスタートアップです。なぜ投資先の多くが地方になったのか。それは、科研費の約75%が地方に投資されていることと関係があります。47都道府県にはすべて国立大学があり、農総研、産総研、JAXAなど、国立研究機関の施設の多くも地方に存在しています。こういった研究機関には、その土地固有の課題と、それを解決するための研究や技術が集積しており、ディープテックスタートアップが生まれる原動力になるのです。 

リアルテックファンドは、単なる資金投入ではなく「研究開発からIPOまで寄り添う」というスタンスで支援を行っています。R&Dの“Research”から始まり、基礎技術の概念実証、量産施策の実行と拡大、IPOと各ステージごとに支援を行うプラットフォームを構築してきました。

最近では、投資先である名古屋大学発のU-MAPという素材系スタートアップと、岡本硝子という千葉の上場企業が手を組んで、新しい素材をグローバル市場に届けています。このような“地方発スタートアップ×地方の優良企業”の連携が、すでに実を結び始めています。

私が2023年までCEOを務めていた株式会社ユーグレナも、“スタートアップ×地方の優良企業”の象徴的な事例だと思います。ユーグレナは2005年に創業して、2008年には大手商社の出資をうけました。メディアに取り上げられるのは大企業との連携になりがちですが、実は創業から現在に至る売上の大部分は、地方にいらっしゃる無数の企業との協業から生まれたものです。

人口が減少していて、資源もなく、英語圏でもない我が日本において、世界から外貨を稼げる産業はディープテクノロジーだと信じています。この信念をもとに、私たちが投資をしてきた85件の国内企業の中から、大型のIPOを果たす企業も徐々に増えてきました。

私はここに集まった方々とともに、グローバルに進出し、日本国内に雇用と産業を創出するビジネスを生み出していきたいと思っています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

中堅・中小とベンチャーの“掛け算”が世界を変える【トークセッション】

丸:ここからはみずほ銀行の足立さんとリバネスの丸が参加して、4名でトークセッションを行います。お二人のプレゼンテーションについて、足立さんから感想を聞かせていただけますか?

足立:山野さんと永田さんのお話はどちらも「小さく始めて大きく育てる」事例で、大変勉強になりました。私は今日初めてアトツギの話を知ったのですが、非常に興味深いですね。

山野:ありがとうございます。貴重な機会なので足立さんにお聞きしたいのですが、中堅・中小企業が新しい領域に挑戦する際、資金を調達しやすくするためにはどうすれば良いのでしょうか?私が見てきたアトツギベンチャーの中には、10人規模から短期間で100人規模に成長を遂げた企業がいくつもありました。ベンチャー支援の延長だと考えれば、新たな領域に挑戦する中堅・中小企業も投資対象に入るのでは、と思っています。

足立 龍生 株式会社みずほ銀行 常務執行役員 リテール・事業法人部門 共同部門長
1990年、青山学院大学経営学部卒業。株式会社みずほコーポレート銀行 内幸町営業第七部部長代理、同営業第四部部長代理、同営業第四部上席部長代理、同産業調査部参事役、同営業第八部チーフリレーションシップマネージャー、株式会社みずほ銀行 営業第八部チーフリレーションシップマネージャー、同渋谷支店渋谷第二部長、同営業第八部長、同執行役員 営業部店担当役員、同常務執行役員 営業担当役員兼エリア長、同常務執行役員 エリア長(法人第1エリア)を経て、株式会社みずほフィナンシャルグループ グループ執行役員 リテール・事業法人カンパニー副カンパニー長および現職。2025年4月より株式会社みずほフィナンシャルグループ 常務執行役員 リテール・事業法人カンパニー共同カンパニー長。

 

足立:中堅・中小企業とベンチャーがタッグを組んで新たなプロジェクトを立ち上げれば、資金調達のハードルは下げられると思います。ベンチャーは、VC・CVCからの投資など、様々な形で調達ができますから。

また、競争相手が少ないフィールドも資金調達がしやすい領域です。代替不可能な、オンリーワンに近いプロダクトには大きな需要が生まれやすいですし、投資の対象にもなりやすい。まとめると、中堅・中小企業とベンチャーがタッグを組んで、新しい技術を生み出し、技術的な参入障壁を築いていくこと。これがファイナンス視点での効果的な選択なのではないでしょうか。

中堅・中小企業とベンチャーはどのように海外展開していくべきか

丸 幸弘 株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO
東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程修了、博士(農学)。2002 年大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。異分野の技術や知識を組み合わせて新たな事業を創る「知識製造業」を営み、アジア最大級のディープテックベンチャーエコシステム「テックプランター」の仕掛け人。世界各地のディープイシューを発掘し、地球規模の課題解決に取り組む。主な著書に『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(日経BP)、『知識製造業の新時代』(リバネス出版)など。

丸:次の話題に移りましょう。このセッションのタイトルには「世界を変えていく」という言葉が含まれています。ここからは、グローバルなテーマを議論していきましょう。

国内の少子高齢化は避けられません。中小企業に話を聞くと、とにかく人材採用ができなくて困っていらっしゃる。新しい挑戦どころか、既存の事業すら維持できなくなるかもしれない、と危機感を抱いておられます。この課題を解決する方法として、海外人材の採用があります。山野さんにお聞きしたいのですが、どの程度のアトツギたちが海外人材を意識しているのでしょうか?

山野:アトツギの20〜30代は、事業面では明確に海外展開を視界に入れています。しかし海外人材の採用についてはあまり聞いたことがありません。

丸:中小企業は英語のホームページを持っていないことも多いですよね。例えば、英語のサイトを作るだけでも採用や商談の問い合わせは増えるのではないでしょうか。

山野:おっしゃる通りですね。少しのきっかけで成長するポテンシャルを秘めた企業は多いと思います。

丸:事業展開や海外人材の採用について、永田さんはどのように考えていますか?

永田:ディープテックスタートアップは積極的に海外展開していくべきだと思っています。ディープテックの最大のメリットは、世界に共通する課題を解決できることです。日本のGDPは世界全体の10%以下ですが、グローバルに進出すればマーケットが10倍以上に拡大しますし、採用候補者も一気に増えます。

特に東南アジアにおいては、いまだに「日本ブランド」が人気です。この強みをどうやって活かしていくのかが、すごく重要なわけですね。ASEANを中心とした広域での人材獲得とビジネスディベロップメントは勝ち筋のひとつだと思っています。

実際に我々の投資先でも、外国人の研究者が増えてきました。海外からの留学生がそのまま日本に定着してくれることもあります。

山野:中堅・中小企業はどのようにグローバルに進出していけば良いのでしょうか?

丸:様々な手段が考えられますが、海外のベンチャーとタッグを組むことがひとつの進出方法だと思います。

例えばリバネスでは、東南アジア各国のディープテック領域を俯瞰して、現地の課題やトレンドを理解し、新規事業の創出を目指す「ディープテックツアー」を開催しています。

ツアーは大企業の新規事業担当者や中堅中小企業、ベンチャーを対象に開催しており、参加者には、社会課題に取り組む現地のディープテックベンチャーや政府関係者、研究機関と交流していただきます。そのプロセスの中で「自社の技術や知識が役立つのでは?」と気づき、現地と連携して、新たなプロジェクトを生み出す企業も現れました。

足立:少子高齢化で今後明らかに日本の労働人口は減っていきます。企業のサステナビリティを維持・向上させるには、日本だけでなく海外にも目を向けて、連携もしくはフィールドを変える動きが必要です。全国知識製造業会議でも、東南アジアとリアルタイムでつないでセッションをするとか、“全国”ではなく“アジア”知識製造業会議に発展させていっても良いかもしれません。

本気になってワクワクしながら相手を知り、共に手を取り合っていくこと

丸:最後に登壇者の皆さんにひとことずつ、会場のみなさんにエールを送っていただければと思います。山野さんからお願いします。

山野:ここは企業と企業の知識を組み合わせ、知識製造業を起こす場ですが、あまり最初からゴールを決めずに、「とにかく面白いことをしたい」というワクワク感を前面に出していきましょう。「こんな未来を実現したい」と熱量を持って喋る人の周りには、自然と人が集まっていくものです。「こんなことできませんか」と積極的に話して、そこに賛同してくれる仲間を探していただけたらと思います。

永田:私からは、山野さんのエールに続く形で、「実現したい未来に対して、ぜひ本気になってください」と伝えたいです。私自身、ユーグレナを経営してきた中で、常に逼迫感を持ち続けてきました。スタートアップは本気です。限られた期間の中で何かを成し遂げようとする真剣さが強烈にあります。

だからこそ、スタートアップの側も真剣な人と組みたいはずです。私はパートナーを探す時に、相手が本気の目をしてるのか、同じくらい逼迫感があるのかをすごく大切にしてきました。誰かの熱は必ず世界を変えていきます。今日は熱と熱が交流し合う場になって欲しいと思っています。

足立:我々みずほ銀行は「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを掲げています。そして私自身も、今はスタンダードアローンでビジネスをしていく考えは捨てていく時代だと思っています。組織の枠組みを超え、強い連携を組んでビジネスをする時代に入っているんです。

今日はみずほからベンチャー支援の担当役員も来ていますし、地域活性化を全面的にサポートする地域創生デスクのスタッフも来ているので、ぜひ情報交換や連携を図っていきましょう。

丸:最後に私からも。まずはみなさん、今日は会場で会う方々と積極的に向き合ってください。多くの方々と名刺交換をされると思いますので、その人が持つ技術や知識、そして解決したい課題を聞いてみましょう。知識製造業の起点は「知識」です。つまり、目の前の相手を知ることがすべてのスタートです。各々が持つ知識と知識を組み合わせて、世界を変える知識製造業を起こしていきましょう。