- インタビュー/具体事例
120年続くガス工事会社「山田商会ホールディング」がベンチャー化の先に見据えるビジョン
2026.03.02
全国知識製造業会議 2025にて、キーノートセッション「中堅・中小企業が東南アジアに投資する意義」に登壇する山田商会ホールディングは、120年にわたり東海エリアでガス工事を手がけてきた企業です。独自のプロダクトや提案方のビジネスを創出したいという思いから、リバネスとパートナーシップを結び、ベンチャーとの連携を進める中で東南アジアにも事業進出しています。その背景にはどのような想いや狙いがあったのか、代表取締役の山田豊久さんに伺いました。
株式会社山田商会ホールディング代表取締役社長 山田豊久氏
2004年(平成16年)3月東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修了、株式会社山田商会入社。07年5月取締役就任。10年5月新設された経営企画室の室長として会計業務や職場環境などの改善に着手。11年3月取締役常務執行役員、14年3月取締役専務執行役員を歴任し、業務領域や部署間における多能工化を推し進めていく。16年9月取締役副社長執行役員を経て20年5月に代表取締役社長執行役員に就任。
時代の変化に対応できた理由は「泥臭さ」
–山田商会ホールディングの中核会社である山田商会は、1906年の創業以来、約120年にわたり名古屋を中心とする東海エリアでガス工事を手がけています。まずはその歴史の始まりをお聞かせください。
明治時代に名古屋市でガス事業が始まることになり、まさにガスの導管を地中に埋めていく、というタイミングで創業者の山田栄之助が声をかけられたことが始まりです。創業者はもともと兵庫の山奥の農家の出身だったのですが、自らの手で商売がやりたいという思いが強かったそうです。今風に言うとアントレプレナー精神の持ち主だったんですね。
–具体的にはどのような経緯だったのでしょうか。
当時、創業者は大阪の土木建築会社でガス工事に携わっていました。そこに「名古屋でガス事業が始まる」という話が出てきて、大阪ガスの技術者だった岡本桜さん(後の東邦ガス初代社長)が技師長として赴任することになった。その際に、大阪ガスでの実績から創業者にも声がかかったんです。名古屋に移った後にも働きぶりを認められ、ガスの導管工事の責任者や、屋内配管工事へと仕事を広げていきました。
–まさに名古屋のガスの歴史と共に歩んでこられた。
はい。工事の材料や方法は時代とともに変化していますし、現在はホールディングとして水道・電気・空調・通信と手がけるインフラの幅も広がっていますが、一貫してガス工事に取り組んできたことが当社の歴史です。
–120年近く成長を続けてきた最大の理由について、どのようにお考えでしょうか。
われわれ自身が常に変化してきた、ということに尽きます。これまで様々な変化がありましたし、中にはパラダイムシフトと呼べるものもありました。私自身が経験したものでいえば、主に二つあったと思います。一つは20年ほど前の自社営業化です。それまでの私たちの営業活動は、ガス事業者に向いていれば仕事をいただけるものでした。しかし工事会社が営業活動を共同で行うように制度が変わり、ガス事業者だけでなく広く外を向いて活動する立場へと大きく変化しました。もう一つは東日本大震災以降の電力ガス自由化です。これによりガスだけでなく、電気や宅配水など、様々な物やサービスを提供する必要が出てきました。当社はこうした変化への対応に全力で取り組み続けています。
そして現在は、カーボンニュートラルへの対応という新たなパラダイムシフトの真っ只中にいます。エネルギーの使い方のみならず、エネルギー全体のあり方が問われていますが、その中で山田商会ホールディングはどうあるべきかを考えています。
–そうした変化への対応がなぜ可能なのでしょうか。
根底には、当社に脈々と続く「泥臭さ」があります。例えば市街部のガス工事や大規模プロジェクトのガス工事など、内容が複雑で難しく、いわば効率の悪い仕事にも山田商会は積極的に取り組んできました。こうした長年の積み重ねが今の強みになっています。

まちの復興にも常に携わってきた。昭和34年伊勢湾台風後の復旧作業
守りの姿勢をベンチャーが打破してくれた
–ベンチャー連携には10年前から取り組んでいると聞きました。その理由は何だったのでしょうか。
山田 将来に対する危機感があったのは確かです。人口が減る中で、どのように工事能力を保つのか。ただ個人的には、そういった危機感に基づくアクションというよりは、「難しい状況だからこそ挑戦していこう」という前向きなスタンスのほうが強かった。創業者と同じく、挑戦するDNAがこの会社にはあると感じています。
–具体的にはどのようなプロセスから着手したのでしょうか。
山田 まずは大学や行政が主催するオープンイノベーション系のイベントに顔を出すところから始めました。当初の狙いは、自社の業務効率化や負荷軽減につながるものを探すことでした。ただ、ベンチャーの皆さんと接するうちに「プロダクトがあること」への羨ましさが次第に出てきたんです。ガス工事は定められた材料や工法によって、定められた仕様で配管を行うものなので、他の工事会社と結果に差があってはいけません。その中で、プロセスや人の能力で差別化を図るわけです。それでも、どうにかして自分たちも何か独自のプロダクトをつくれないか、あるいは提案型のビジネスができないか。そうした思いを抱くようになりました。
–ベンチャーのあり方に触発されたわけですね。
山田 当社は常にインフラに携わってきた経緯から、定められた仕様の工事をやりきることは得意です。一方で目の前の工事に集中しすぎたり、将来の工事量を心配するあまり、工事の先にいるユーザーの目的や課題が置き去りになりがちです。これに対して、ベンチャーの皆さんはまず課題意識が先にあり、どうにかしてその課題を解決するんだという強い思いがある。その熱に触れることで、当社の社員も刺激を受けて活性化することができています。
ガス工事の真の価値は「レジリエンス」だった
–そうした中で、2023年からリバネスをパートナーに選んだ理由は何だったのでしょうか。
それまでのベンチャー連携にも得るものはありましたが、結果的に事業として実を結ぶところまではいきませんでした。一方で、リバネスは事業に実装するところまでもっていくことに強みがあり、その実績もあった。それが最大の理由です。
–ありがとうございます。実際にリバネスと動いてみた印象はいかがでしょうか。
常に感じているのは、われわれとベンチャーさんの間にリバネスがしっかり入ってくれる、ということです。双方のイメージがズレていれば、すぐに軌道修正をかけてくれる。「アプローチすべきは別の方法ではないですか」「山田商会ホールディングの本来の強みはこうではないですか」といった具合です。そうやって整理してもらうことで、私たちも自社のアセットの新しい見え方に気づくことができています。
–そうした議論の中で、「山田商会ホールディング=レジリエンス」というキーワードも浮かび上がってきました。
レジリエンスという言葉は知っていましたし、当社としても大きな災害時には常に復旧・復興支援に駆けつけてきた経験があります。ただ、日常的な業務とレジリエンスを結びつけて考えたことはなかった。ですから、山田商会ホールディングの仕事を抽象化するとレジリエンスになるという考え方には新鮮な納得感がありました。
というのも、実際にその視点で自社を捉え直してみると、様々なことがバーっとつながるんです。例えば当社グループには土木工事に従事する社員もいれば、家庭用の省エネ機器を販売する社員もいます。「レジリエンスを高める仕事をしている」という言葉であれば、誰もがその価値を目の前の仕事からイメージできるわけです。
また、災害復旧についても、ことが起きてから準備をしていては間に合いません。われわれが緊急時に力を発揮できる理由は、平時に携わっているガス工事を通じて技術者を抱え、育成することができているからです。その意味では、山田商会が120年近く続けてきたガス工事は、「まちのレジリエンス」をハード面だけでなくソフト面でも高めることだったんだと表現できます。この考え方を会社全体の理念にどう反映していくかは今後の検討事項ですが、非常に大きな気づきになったことは間違いありません。
山田商会ホールディングがリバネスと仕掛けてきた主な取り組み
2023年11月 岐阜テックプランター2023参画
共催である株式会社大垣共立銀行 土屋常務のご紹介により、リバネスの取り組みに地域開発パートナーとして初参画。
2024年2月 マレーシア・ディープテックツアー参加
代表の山田氏が、マレーシアでのツアーに参加。リバネスと年間を通じ、事業開発、ブランディング、人材採用のプロジェクトを行うことを決断。
2024年6月 テックプランター・ディープテックグランプリ2024参画
ディープテックグランプリ(センサやAI、ロボティクス等の基盤技術)に、パートナーとして参画。鉄筋腐食検知技術を開発する 「シビオニクス(群馬大学)」に山田商会賞を授与。
2024年9月 超異分野学会2024大阪・関西大会のセッションに登壇
『中堅・中小企業×スタートアップで生み出すドローンサービス』と題したセッションに専務の鈴木氏がパネリストとして登壇。地域インフラにおけるドローンの活用方法について議論。
2024年10月 世界最小級のドローンを開発するLiberaware社と業務提携を開始
インフラ工事・メンテナンス市場におけるDXを実現するため、株式会社Liberawareが開発したドローン「IBIS2」のパイロットチームを山田商会HD社内に組成。
2024年11月 東南アジア最大級のスタートアップイベント「SWITCH」に出展
シンガポールにて3日間、2万人以上が来場したイベント出展と現地視察を通じ、エネルギー、防災、住環境、インフラ・メンテナンスの4分野で東南アジアの課題と技術を探索。
2024年11月 研究者の新たな活躍の場をつくるイベント 「Add Venture Forum」に参加
若手研究人材と「あなたが考える、人と地球の『レジリエンス』とは?」というテーマで議論し、仲間集めを行う。
2024年11月 岐阜テックプランター2024参画
地域開発パートナーとして2期目の参画。食品副産物のアップサイクルを目指すともしびマルシェ株式会社に山田商会賞を授与。
2024年12月 リバネス及びテララボ災害対策オペレーションセンターと連携し、「リバネス・レジリエンス・プロジェクト」東海支部を立ち上げ
研究資本提携を結んだ株式会社テララボが名古屋空港内に開設した災害対策オペレーションセンターを拠点に、災害時の迅速な復旧を可能にする研究開発を開始。
2025年1月 リアルテックグローバルファンド2号に参画
さらに多くのベンチャーとの共創のため、東南アジアを中心としたディープテックエコシステム構築を目指すファンドにLP出資。
東海エリアにおけるベンチャーの窓口になる
–リバネスとの連携では東南アジア進出も一つの柱になっていますが、それ以前から山田商会ホールディングでは取り組みを始められています。<
将来の担い手として、東南アジア人材への期待がありました。ただ当社のポリシーとして、採用した社員が数年後に帰国することになり、「退職後のことは知りません」という状態にはしたくなかった。そこで2020年に初の海外子会社であるYSデザインベトナム有限会社を設立し、長期的に関係性を構築できる環境をつくりました。また、東南アジアは全体で約7億人という巨大市場でもあります。ビジネスチャンスが広がっているのと同時に、われわれが現地の課題解決に協力できる部分も必ずあるはずだ、というイメージを以前から持っていました。
–そのうえで、リバネスとの連携ではどのような収穫があったのでしょうか。
明らかに違ったのは、「現地の知識を日本に持ち帰る」という視点です。日本から東南アジアのマーケットに「持ち込む」のではなく、現地のベンチャーの技術や知識を日本に「持ち帰る」。この発想はなかった。マレーシアのディープテックベンチャーをめぐるツアーにも参加しましたし、シンガポールで開催された東南アジア最大級のスタートアップイベントであるSWITCHにはわれわれ自身が日本のベンチャーとして出展しましたが、現地での議論のテーマは常に「日本で一緒に何ができるか」でした。
–日本のベンチャーと東南アジアのベンチャーを比較して、新たな発見はありましたか。
結論から言えば「日本も東南アジアも違いはない」という実感を持てたことが最大の発見でした。国や言語など背景の違いはあるものの、課題解決に挑む姿勢や、そこにかける情熱には何の違いもありません。だからこそ、こちらとしても「どう組むことができるか」「一緒に何を実現できるか」という本質的な議論にすっと入ることができました。
–東南アジアを中心とするグローバルなディープテックベンチャー支援に特化した「Real Tech Global Fund 2」に参画されたのも、同じ視点がベースにあったのでしょうか。
おっしゃる通りです。そのうえで、ファンドに出資した理由は「より多くのベンチャーに会えるから」に尽きます。自分たちで直接コミュニケーションを取るよりも、ファンドを通じて接点を持つほうが探索面で効率が良いのは明らかです。そのプロセスの中で「こことはぜひ一緒に組んでみたい」という相手が現れたら、改めて直接の出資も含めて考えていく、というスタンスです。
–最後に、この1年のリバネスとの連携をふまえた今後の展望をお聞かせください。
現在はリバネスとの連携を通じて、新規事業のパイプラインが次々に生まれている状況です。正直に申し上げて、これは当初の想定を大きく上回る成果ですし、今後の可能性が本当に大きく広がったと感じています。この先、いかにビジネスとして着地させていくのか、ということがわれわれとしても問われています。違う表現でいえば、山田商会ホールディングの何を真のアセットとして捉えて、ベンチャーの皆さんと連携していくのか、ということでもあります。
一義的には、われわれはやはりガス工事会社であり、何か物を据えつけるとか、重機を操縦するとか、あるいは既存の顧客ネットワークがある、といったことが強みになります。しかしその部分だけに留まるのではなく、より本質的な知識を活かして、例えば全く新しいインフラ設備や機器のメンテナンス手法をベンチャーさんと共同で開発するようなことにも挑戦したいと考えています。
この1年で改めて感じているのは、「山田商会ホールディングは名古屋を中心とする東海エリアの会社である」ということです。そのことに大きな誇りがありますし、これが最も力を発揮できるアセットでもあります。ですから、ある意味ではベンチャーの皆さんの代理店といいますか、このエリアでの活躍をサポートできる存在になっていきたいと思います。グローバルでも、国内でも、ベンチャーが東海エリアで活動する際には必ず山田商会ホールディングに相談を寄せていただける。そんな将来像を今描いているところです。
また、こうした組織変革は、代表ひとりの意思だけでは成し遂げられません。最後に、山田商会の事業を支えてきた古参社員から、変革へ向けた意気込みや、今後の指針について伺います。
120年の歴史を改革する覚悟を持ち、美しい仕事を創り出す
株式会社山田商会ホールディング専務取締役 鈴木啓之 氏
この10年ほど、私自身も新たな事業の柱を模索し続けてきました。最初に感じたリバネスの印象は、紹介いただくベンチャーの方々も含めて、とにかく全員が一生懸命だということ。ですから、すぐに信頼することができました。1年間の活動を経て、新規事業のアイデアと既存事業の間に親和性が現れてきたことを強く感じています。
目新しく面白いテーマはいくらでもありますが、当社の強みは100年以上のインフラ工事で培ってきたノウハウ、そしてこの事業をやり続けてきた「人」です。ここを変えるわけにはいきません。この会社に新卒で入社し、先々代の社長の頃から40年以上育ててもらってきたからこそ、山田商会の存在意義を考え続けることが私の使命だと感じています。
当社のガス工事では、現場監督一人一人が責任を持ち、仕事の進め方も基本的には自分で判断しています。その影響で、昔から「一人親方が集まったような会社」の雰囲気がありますし、一人一人に「仕事とはこういうもの」という基準があります。
そんな彼らに新規事業を受け入れてもらうためには、「なぜ山田商会がやるのか」に納得してもらうことが重要です。だからこそ、リバネスとの仕事では、まずは私自身が飛び込んで、必ず最後までやり切るようにしています。自分の経験をもとにした言葉でなければ、社員には伝わりませんから。
新規事業でもベンチャー連携でも、仕事の本質は「覚悟」を持つことだと私は信じています。会社を支え続けてくれた社員たちに誇れるような、美しい仕事を創り出していきたいと思います。
「伝統」と「新しさ」の橋渡し役になり、チャレンジする土壌をつくる
株式会社山田商会 イノベーションルーム 責任者 木村利幸 氏
数年前にイノベーションルームの責任者に任命され、大学のイベントなどを通してアカデミアとの接点を徐々に増やしてきました。ただ、リバネスとの取り組みは、出会う研究者・ベンチャーの領域の幅広さも連携のスピード感も全く異なります。何より事業アイディアの引き出しが豊富で、毎回、驚かされています。
一連の活動で特に印象に残っているのは、世界最小級のドローンを開発するLiberawareさんとの連携です。1年前は全く想像もしていませんでしたが、実はドローン操縦免許の講習に通って免許を取得し、実証試験では操縦士も務めました。
当初は複雑な操作に苦戦し、「これは年齢的に無理なのでは」と思うこともありましたが、新しい知識に触れることは非常に刺激的で、本当に楽しい経験です。昼休みに操縦の練習をしていると、これまで業務でしか話さなかった若手社員たちが強い興味を示してくれたりもします。
もともと私は工務事務の部門で室長を務めていたのですが、そこでは現場の職人と本社総務の間を取り持つことが重要な役割でした。ですから今後は、伝統を大切にしてきた社員と、新しい理念で生まれ変わろうとする会社の橋渡し役になりたいと考えています。
また、実はイノベーションルームの責任者に抜擢されたのは役職定年後のことなんです。その意味では、ある程度年齢を重ねていても山田商会では活躍できるんだ、という事例にならなければという気持ちもあります。「チャレンジする土壌」をこの会社につくっていきたいですね。
