【連携事例:サンコー技研×アンプラット】わずか4ヶ月で「打ち抜き加工について何でも答えるChatbot」を共同開発
2024.08.292024年4月に開催した全国知識製造業会議2024に出展した株式会社サンコー技研と株式会社アンプラットは、わずか4ヶ月という猛スピードで、精密打ち抜き加工について何でも答えてくれるChatbot『サンコー君』を共同開発した。「知識と技術の集合体によって日本の製造業を前進させたい」という熱い思いを共有した2社が、どのように知識製造業を実践していったのか。その生の声を紹介する。
※本記事は、全国知識製造業会議2024に出展いただいた方々を対象としたアフターセミナーの内容をまとめています。
「打ち抜くこと」のプロフェッショナルであるサンコー技研
長:これより「全国知識製造業会議2024 オンラインセミナー」を始めます。みなさん、よろしくお願いします。まず、改めて全国知識製造業会議とはどのような場なのかを説明させてください。リバネスでは、知識と知識の組み合わせによって新たな知識をつくりだし、未解決の課題を解決する「知識製造業」という概念を提唱しています。
そして全国知識製造業会議は、全国の中堅企業・中小企業、ベンチャー企業、金融機関が一堂に会して、知識製造業の概念やその実践方法を共有・議論する場です。2024年4月12日に開催した同会議では、初開催にもかかわらず418名にご参加いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。
今回のセミナーでは、全国知識製造業会議2024で出会ったことをきっかけに、2024年6月に新サービス『サンコー君』をリリースした株式会社サンコー技研の田中敬さん、株式会社アンプラットの三澤拓真さんにお越しいただきました。まずは、自己紹介をよろしくお願いします。
サンコー技研 代表取締役社長 田中敬 氏 弊社は、東大阪にある企業で創業47年目になります。精密打ち抜き加工のプロであり、金型やプレス、トムソンなどあらゆる「打ち抜き」に関する加工技術を持っています。また、打ち抜き加工にかけられるコストや製品を使用するお客様を考慮して、最適な製法をご提案します。弊社が手がけてきた代表的な製品として、SuicaやICOCAの交通系ICカードがあります。これまで1億枚以上のICカードをプレス加工しており、クレーム数はゼロという高品質で提供しています。
また、製造業のDX推進にも取り組んでおり、日報&工数管理アプリ『スマファク!』を2020年から提供しています。開発のきっかけは、弊社の従業員が、作業内容や時間などの日報を手書きで記録しており、これを電子化したいと思ったからでした。社内でアプリを使い始めると「とても便利だ」という声が多く、2020年から『スマファク!』と名付けて外販を開始。機械にQRコードを貼り付けることで、現在は、どの作業にどのくらいの時間がかかったかを一覧でき、それらを踏まえて作業の計画も立てられるような仕様になっています。
あらゆる解析手法を研究者に提供する アンプラット
長 精密打ち抜き加工という素晴らしい技術を持ち、さらには新たな挑戦としてDXにも取り組んでいて、製造業のトップランナーだと感じました。次は、アンプラット三澤さん、自己紹介をお願いします。
アンプラット 代表取締役社長兼CEO 三澤拓真 氏 弊社は一般的なカテゴリーでいうとIT企業に当てはまります。少々事業の内容が複雑なのですが、弊社のコア技術にバイオインフォマティクス解析というものがあります。バイオインフォマティクスとは生命科学と情報科学を融合した分野で、遺伝子解析などが当てはまります。「解析手法のDX」「解析手法のSaaS」「解析手法のプラットフォーム」の3つを軸に、研究者や医師などにサービスを提供しています。
このようなサービスを提供している背景としましては、昨今、いかにDXを推進していくかの時代になっており、その波が生命科学という研究業界にも押し寄せています。現在、生命科学では、専用の機械から何百ギガというデータを取得して解析することを前提に研究が行われています。つまり、適切なプログラムを取得あるいは自作して、やっと研究のスタートラインに立てるという状況です。弊社は、そんな研究業界を手助けするため、バイオインフォマティクスをはじめとするあらゆるデータ解析を直感的な操作で扱えるデータ解析技術共有プラットフォーム『ANCAT』を提供したり、生命科学データ解析システムの開発・運用をしたりしています。
では、製造業に携わる企業が多く出展する全国知識製造業会議に、なぜ私たちが参加したのか。たとえば私たちが支援した研究者が新たな素材を発見した場合でも、研究者はそれを「製造」できる手段を持ち合わせていません。モノが作れないということは、研究成果を一般の人たちに届けられないということにもなります。そんな課題を解決するためにも、まずは製造業の人たちと繋がりたいと思い、全国知識製造業会議に参加しました。
田中さんや他の製造業の方々と話をする中で、製造業に抱いていた印象が変わりました。話を聞く前は、ハイテクな機械が沢山稼働しているのかと思ったのですが、それは一部の大規模工場のみ。日本の製造業の大半を支えているのが、何年も技術を磨いてきた職人のような人たちです。また小さな町工場では、まだまだ事務作業では紙が主流になっており、IT化すらできていないところもあります。ITの専門ではない人たちに、サービスを届けるという点においては、バイオインフォマティクス業界も製造業も変わらない、同じようなことで困っているという気づきがありました。
「楽しく」が2社の事業連携を加速させるスパイスに
長 今回リリースしたサービスについて教えてください。
田中 弊社がこれまで蓄積していたデータを用いて、精密打ち抜き加工について何でも答えてくれるChatbot『サンコー君』を8月にリリースしました。
精密・高精度打ち抜き加工のサービスページに『サンコー君』が実装された
長 この連携は、どのように進めていったのでしょうか。お二方とも全国知識製造業会議で初対面だったと伺っています。最初はどのようなお話をされたのでしょうか?
田中 まずは互いにどんな事業をしているのかを話しつつ、「弊社が蓄積してきた精密打ち抜き加工に関するデータを、何かに活用できないだろうか」と持ちかけたのが始まりです。
三澤 全国知識製造業会議の後は、「精密打ち抜き加工について教えていただきたい」というスタンスで、私たちからミーティングの設定を提案しました。
長 その後の企画や開発はどのように進んだのでしょうか?
田中 まず、機械の手順書や工程表、品質関係の文書、さらに営業資料やホームページの情報など、弊社の15年分のデータを三澤さんにお渡しして、それらを全てプログラムに学習させる、というプロセスを踏みました。そして結果的に、「打ち抜くこと」に関する質問なら何でも答えてくれるChatbot 『サンコー君』が完成しました。
三澤 田中さんと一緒に開発をするのは、とても楽しかったです。田中さん自身がとても魅力的な人で、ユーモアのあるアイデアをどんどん出してくださいました。例えば、データにないような質問をChatbotに投げられた時に、どのような返答をさせようか悩んでいて、当初は一般的な回答を生成AIで作ろうとしていました。しかし、「それではつまらない」という話になりまして、「サンコー技研は大阪の企業ですし、今回はChatbotのアイコンに猫のマークを使用しているので『知らんけどにゃ』と回答するのはどうでしょう」と提案してくださいました(笑)。
真面目に課題解決をするのももちろん大事なのですが、遊び心を持って取り組むことも重要です。そのようなアイデア出しを毎日のようにSlackでやりとりさせてもらい、約4ヶ月というスピードでリリースをしました。
製造業の全てがChatbotに集結する未来
長 今後、どのようにサービスを展望していくのか教えてください。
田中 8月23日に精密・高精度打ち抜き加工のサービスページに実装が完了しましたので、これからは、細かなブラッシュアップをしていく予定です。2024年6月28日開催の「今すぐ使える!! IoT・AI・ロボット展」にβ版 サンコー君を出展し、多くの人たちに試してもらい、そこで大反響でして。実装が完了したので、これから沢山の人たちに触ってもらいたいですね。
私は「日本の製造業にいかに貢献できるか」を常に考えています。今は弊社のデータのみをベースとするChatbotになっていますが、今後は、あらゆる技術や知識が蓄えられたChatbotを作っていきたいですね。そうすると、製造現場にスマホ一台を持って何でも聞けてしまう日がくるのかなと想像しています。技術と知識の集合体を作ることで、日本の製造業を前進させたいです。
三澤 アンプラットが目指すものとして「知の共有」がキーワードの1つにあります。普通ならば自社が持っている技術や知識は隠しておこうという思考になります。しかし、田中さんは「どんどん自分たちの知を公開したい」とおっしゃっていて、それはまさしく私たちが目指す「知の共有」に関わると感じました。日本全体の成長を促すために、知識をオープンにしていく。そんな流れを田中さんと作っていきたいですね。
長 田中さんと三澤さんは、製造業に関する技術や知識が、見える化されていない、共有しづらいという課題を解決するため、Chatbotという手段を用いて「人を解さずに知識を共有する環境」を提供しています。「打ち抜くこと」についてサンコー技研が持っている知識と、「知の共有」を掲げてデータ解析をしてきたアンプラットが持つ知識、これらを組み合わせて、サンコー君が生まれました。まさに、知識製造業の実践と言えるのではないでしょうか。お二人の実践がさらに広がっていくことを、楽しみにしています。本日は、ありがとうございました!