- 全国知識製造業会議
自社の外へ視野を広げるための“実験的研修” <全国知識製造業会議>
2025.09.29
株式会社YDM
埼玉事業部 事業部長 原口 隆 氏
企画開発部 部長補佐 内野 圭一 氏
株式会社YDM は、埼玉県に自社工場を構え、精密加工・設計・品質保証の技術を核に、医療機器で培った「高精度な加工技術と安心安全」の強みを活かす医療機器製造販売を行っている。展示やピッチ、異分野の企業との対話を通じて、製造現場に生きる彼らは、どんな気づきを得て、何を持ち帰ったのか。視野拡張から始まる人材育成の可能性を探る。
製造現場に生まれた内発的動機
参加のきっかけは上層部が抱えていた「現場の視野が内向きになりがち」という課題感からだった。日々の業務は割り振られた製造や役割をこなし、不具合対応に追われ、同じ分野の顧客や協力業者とのやりとりに終始する。YDM社の原口氏は「自分たちの周囲にある世界をもっと知ってほしかった」と語る。しかし、いざ全国知識製造業会議に社員を送り込んでみると、思いがけない反応があった。
「面白い」「もっと知りたい」と、前向きに場を吸収しようとする姿勢が生まれた。トップダウンで始まった参加は、次第に“ 自分ごと” になっていった。
「自分たちの当たり前」を言語化する難しさ
準備段階では、自社の強みを言語化するワークショップが行われた。企画開発、設計、生産技術、品質管理、製造といった異なる部署が一堂に会し、「うちの価値とは何か」を語り合った。そこで直面したのが、「うちの強みは何か?」という問いだった。同社はこれまで、高品質でニーズに応えることを強みとしてきたが、海外メーカーの品質も上がってきており、果たしてそれが今でも本当に強みなのかといった疑問を持っていた。限られた業界の中で他社との比較が少なかった現場では、独自技術の価値が相対化される機会が乏しく、社内でも明確に強みを把握できていなかった。だが、展示やピッチを通じて他社と並んだ時、「自分たちが当たり前に使っている技術は、実は他社にはできないこと」だと気づいた。日常業務の中に埋もれていた“ 無自覚な技術資産” が、自覚され始めた瞬間だった。
年1回程度が「刺激としてちょうどよい」
参加を通じた最大の成果は、視野が広がったことだ。社員たちは異分野企業との出会いを通じて、情報や価値観の多様性に触れ、無意識にかけていた“ フィルター”を外す訓練を得た。とはいえ、組織の体質や思考が一朝一夕に変わるわけではない。「ほっとくとまた視野は元に戻る。だから定期的に刺激を与える必要がある」と原口氏は語る。年間を通じた研修などよりも、むしろ年1回程度のペースで非日常の世界に触れる機会を設けることが“ 変わりすぎず、でも未来志向につながる” 最適なリズムになるはずだ。
(文・長谷川 和宏)